本書は遠藤周作が1957年に発表した小説。太平洋戦争中に捕虜となった米兵が臨床実験の被験者として使用された九州大学生体解剖事件を題材にした作品である。
ある夫婦が新宿から電車で一時間もかかるまだ数の少ない住宅地へ引っ越した。男は肺が悪いため近くの勝呂病院を訪ねたが、勝呂医師は無口で変わり者だった。後に男はその医師が九州大学生体解剖事件に関わっていたことを知る。
勝呂(すぐろ)はF市の大学病院で医師をしていた。彼の最初の患者「おばさん」が教授たちの実験に使われることに憤りを募らせていたが、おやじと呼ぶ橋本教授が出世で重要としていた田部夫人の手術で教授が失敗し死なせてしまったことを機に浮足立った考えを持つようになる。
この小説は「日本人の罪意識」がテーマとなっている。勝呂のほかに学生時代からの友人戸田、満州で子をお腹の中で死なせ生殖機能を失い離婚し九州に戻ってきた看護師上田の視点でも話は展開していく。それぞれこの事件に携わることになるが、罪意識はそれぞれ違う。
日本人は西洋とは違い明確に信仰する神が存在しない。「神なき日本」は罪と罰をそのように意識しているのかというのがこの小説の一番重要に論じられていることだ。
まとめ
なかなか重い話だったがそれだけに読んでいる最中はかなりドキドキした。ということは私は勝呂と同じような人間なのかもしれない。